

壁画の大ヤコブの状態は肌の色合いが比較的よく残っています。目元の描写も細かな輪郭までは望めませんが、大まかな陰影は復元されており、大ヤコブの表情の特徴は感じられます。髪の毛やあご髭に関してはほぼ壊滅状態で残念としか言いようがないのですが、ほんの微かにあご髭の先端に数本程度の描画が残されている部分を見る限り、その他の使徒同様、あご髭も鋭い筆跡で描かれていたようです。
大ヤコブのデッサン画ウィンザー城コレクションには大ヤコブのデッサン画が残されています。
レオナルドは何点かのデッサン画を最後の晩餐のために描いています。
シモンやバルトロマイ、ユダなどですが、それらは非常に丁寧に描かれた素描で、それだけで観賞に値する高い完成度を持っています。
しかし、この大ヤコブの素描はかなりラフに描かれており、明らかに短い時間で描かれていることがわかります。この時期のレオナルドは最後の晩餐の完成を急ぐ必要に迫られていたのかもしれません。
また、この大ヤコブのポーズは完成された現在の最後の晩餐とは違い両手を大きく広げてはいません。おそらく、レオナルドがこの大ヤコブのデッサン画を描いた時期には最後の晩餐の構図が今のものとは違っていた可能性も高いでしょう。
大ヤコブの衣服の描写は完全に消滅しています。僅かに襟元に深い緑色の描画の痕跡が残されている程度です。
それに反して、肌の部分はかなり保存状態が良く、かすかに赤みが感じられる肌の色合いも残っています。最後の晩餐全体の中でもかなり状態の良い部分です。
大ヤコブ、頭部の復元。
大ヤコブ周辺の三人は最後の晩餐の中でも表情や身振りが特に激しく、最後の晩餐の印象を左右する重要な部分になります。
大ヤコブの髪の毛の描写は岩窟の聖母の聖母と天使の髪の毛の描き方を参考に再現しています。
緑色の衣服の復元。
大ヤコブの衣服の描写は完全に失われている為、複数の複製画の情報を基に復元しています。
胸のブローチに関しては岩窟の聖母の胸のブローチの描き方を参考にしています。
両手の復元。
手の部分も壁画には断片しか残されていないので復元する為の十分な情報は得られません。
二つの複製画ではこの部分の描写はかなりの類似点があります。おそらく、レオナルドのオリジナルでもこのような描写であったことは間違いないでしょう。


上の二つの複製画のテーブル上の静物の比較では大ヤコブの正面にある小皿の位置に違いがあります。また、塩壺とオレンジの配置も微妙に違い、さらにはコップに注がれているワインの量にもそれぞれ違いがあります。これらの微妙な違いは壁面に残る痕跡と照らし合わせながら修正し、復元図を描いていきます。
最後の晩餐で描かれる料理の内容はいたって質素です。魚を切り分けたものとパン、オレンジ、そしてワインだけです。テーブル上には大皿、小皿、フィンガーボウル、ワイングラス、水差し、そしてごく薄い刃のナイフといったものが配置されています。これらの描写はいたって一般的なもので特に変わった点はありませんが、その配置には絶妙のバランス感覚とセンスがあります。
この中で気になる点はフィンガーボウルの配置されている位置で、かなりテーブルの端に偏っている点に不自然さを感じます。
画面の中では見慣れているせいでそれほど違和感がないのですが、実際にはテーブルからはみ出すほど端に置かれており、テーブルギリギリに立ったり座っている使徒の体に干渉するはずなのですが、そういった描写も見られない点が非常に不自然と言えます。
これらのフィンガーボウルの不自然な描写が生まれる理由はレオナルドによる加筆であると私は考えています。
一旦完成した最後の晩餐のテーブル上の印象が気に入らず、後からもう一工夫付け加えたのがこのフィンガーボウルです。後から空いているスペースに無理に配置しているため様々な不自然さを生み出しています。





最後の晩餐には四つの塩壺が描かれていたのですが、現在の壁画には全く痕跡が残されていない部分が二ヶ所あります。
一つはアンデレの正面の位置、そしてもう一つがこの大ヤコブの手前の位置です。この位置に塩壺が描かれていたことは幾つかの複製画で確認できるので塩壺が描かれていたことは間違いないでしょう。しかし、現在の修復された壁面にはその痕跡全く残されてはいません。
塩壺の痕跡が画面に全く残されていない理由はおそらくそれらの描写が後から付け加えられた加筆であったためではないかと考えられます。
http://leonardoresearch.com/ August 17 2014